2019年1月5日土曜日

ピョートル・チャイコフスキー 交響曲第6番 ロ短調 「悲愴(Pathetique)」

 誰もが知るバレエの名作や交響曲を始めとした多くの楽曲を生み出した19世紀の偉大なロシア人作曲家ピョートル・チャイコフスキー(184057-1893116日)。その最後の交響曲は他の作品と比較すると『悲愴』という副題もあり、暗く、物悲しいイメージが付き纏います。しかし、作曲者自身も副題を『悲劇的』と付けることは反対していますし、自身がスコアの表紙にロシア語で書き込んだ副題は『патетическая(パテティーチェスカヤ)』(日本語訳では「情熱的」「熱情」などの意味)となっています。楽譜出版社ユルゲンソンへの手紙ではフランス語の『Pathétique』(日本語訳では「悲愴」「悲壮」などの意味)を副題に用いているので、この『悲愴』という日本語の副題は誤りではないのですが、その中には『情熱』や『力強さ』が隠れているのです。

 1888年に交響曲第5番を初演したチャイコフスキーは、翌年から新たな交響曲に取り組みます。当時の手紙には「創作活動の完結になるような壮大な交響曲を作曲したい」、という強い意気込みが記されています。しかし189210月、オーケストレーションを開始したチャイコフスキーは途中で破棄してしまいます。その冬、ヨーロッパ演奏旅行の途中に突然新たな交響曲アイディアが浮かび、19833月には僅か3週間で全草稿を書き上げます。自身による初演後、「私の全ての作品の中で最高の出来栄えだ」と周囲に語ったと言われる本作品、各楽章について簡単にご紹介します。

1楽章:アダージョの序奏付きのソナタ形式の楽章。作曲者本人曰く、『レクイエム的な暗さの序奏』はFgソロによる『溜息』、『嘆き』で始まります。この楽章ではロシア正教のレクイエムに相当するパニヒーダから旋律が引用されるなど、各所にレクイエムを意識した仕掛けがあります。憧憬を感じる旋律や、嵐のような旋律など、次々に音楽が移って行き、最後は静かに終わります。
2楽章:優雅なワルツのような曲ですが、5拍子の曲です。5拍子自体はロシア民謡でよく使われるリズムであり、作曲者もバレエ音楽で多く利用しています。しかし交響曲で利用するのは、当時異例なことでした。
3楽章:12/8拍子のスケルツォと4/4拍子の行進曲が結合した曲。この交響曲の中で最も華やかな楽章で、3連符系の動きと2拍子系の動きが交互に、もしくは同時に出てきます。同時にというのは、例えば木管の中でもFlCl12/8拍子、つまり3連符系の動きをしているときにObFg4/4拍子で動いている、と言った具合に異なるリズムで同時に演奏しているわけです。リズムの天才と呼ばれたチャイコフスキーの実力を伺うことができますね!この楽章は非常にダイナミックに、まるで曲が全て終わったかのように終わりますが、まだ3楽章です。演奏会に聴きに行く際は、ここで拍手をしないようにご注意ください!
4楽章:嘆きと慟哭に埋めつくされたフィナーレ。交響曲の最終楽章は通常華やかに終わりますが、この楽章は非常に静かに終わります。この楽章も様々な工夫があり、例えば冒頭のヴァイオリンによる旋律、これは1stVnが弾いているわけではなく、1stVn2ndVn1音ずつ交互に弾いています。このような楽譜であるため、Vnは広い音程を跳躍することになり、結果として『喘ぎ呻くような響き』が現れるのです。これ以外にも色々と工夫があるのですが、結果として生まれる『強い感情』、これが凄まじい楽章です。私はこの楽章を聴いて、音楽というのは凄いなと改めて感じています。あなたはどう感じましたか?

 この交響曲第6番の初演から5日後にチャイコフスキーは体調を崩し、その4日後の19831025日、急死します。享年53歳でした。父イリヤが84歳まで生きたことを考えても、チャイコフスキーの死はあまりに早く、そして突然でした。何かに導かれるような閃きにより作曲され、図らずも最後の作品となってしまった本作品。劇的なエピソードに目が行きがちではありますが、この作品自体が持っている大きな力、これを是非感じ取って頂ければと思います。

第1楽章(00:09)、第2楽章(17:42)、第3楽章(26:33)、第4楽章(34:56)

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