1888年に交響曲第5番を初演したチャイコフスキーは、翌年から新たな交響曲に取り組みます。当時の手紙には「創作活動の完結になるような壮大な交響曲を作曲したい」、という強い意気込みが記されています。しかし1892年10月、オーケストレーションを開始したチャイコフスキーは途中で破棄してしまいます。その冬、ヨーロッパ演奏旅行の途中に突然新たな交響曲アイディアが浮かび、1983年3月には僅か3週間で全草稿を書き上げます。自身による初演後、「私の全ての作品の中で最高の出来栄えだ」と周囲に語ったと言われる本作品、各楽章について簡単にご紹介します。
第1楽章:アダージョの序奏付きのソナタ形式の楽章。作曲者本人曰く、『レクイエム的な暗さの序奏』はFgソロによる『溜息』、『嘆き』で始まります。この楽章ではロシア正教のレクイエムに相当するパニヒーダから旋律が引用されるなど、各所にレクイエムを意識した仕掛けがあります。憧憬を感じる旋律や、嵐のような旋律など、次々に音楽が移って行き、最後は静かに終わります。
第2楽章:優雅なワルツのような曲ですが、5拍子の曲です。5拍子自体はロシア民謡でよく使われるリズムであり、作曲者もバレエ音楽で多く利用しています。しかし交響曲で利用するのは、当時異例なことでした。
第3楽章:12/8拍子のスケルツォと4/4拍子の行進曲が結合した曲。この交響曲の中で最も華やかな楽章で、3連符系の動きと2拍子系の動きが交互に、もしくは同時に出てきます。同時にというのは、例えば木管の中でもFl、Clが12/8拍子、つまり3連符系の動きをしているときにOb、Fgは4/4拍子で動いている、と言った具合に異なるリズムで同時に演奏しているわけです。リズムの天才と呼ばれたチャイコフスキーの実力を伺うことができますね!この楽章は非常にダイナミックに、まるで曲が全て終わったかのように終わりますが、まだ3楽章です。演奏会に聴きに行く際は、ここで拍手をしないようにご注意ください!
第4楽章:嘆きと慟哭に埋めつくされたフィナーレ。交響曲の最終楽章は通常華やかに終わりますが、この楽章は非常に静かに終わります。この楽章も様々な工夫があり、例えば冒頭のヴァイオリンによる旋律、これは1stVnが弾いているわけではなく、1stVnと2ndVnが1音ずつ交互に弾いています。このような楽譜であるため、Vnは広い音程を跳躍することになり、結果として『喘ぎ呻くような響き』が現れるのです。これ以外にも色々と工夫があるのですが、結果として生まれる『強い感情』、これが凄まじい楽章です。私はこの楽章を聴いて、音楽というのは凄いなと改めて感じています。あなたはどう感じましたか?
この交響曲第6番の初演から5日後にチャイコフスキーは体調を崩し、その4日後の1983年10月25日、急死します。享年53歳でした。父イリヤが84歳まで生きたことを考えても、チャイコフスキーの死はあまりに早く、そして突然でした。何かに導かれるような閃きにより作曲され、図らずも最後の作品となってしまった本作品。劇的なエピソードに目が行きがちではありますが、この作品自体が持っている大きな力、これを是非感じ取って頂ければと思います。
第1楽章(00:09)、第2楽章(17:42)、第3楽章(26:33)、第4楽章(34:56)
第1楽章(00:09)、第2楽章(17:42)、第3楽章(26:33)、第4楽章(34:56)
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