ドラゴンクエストシリーズと言えば日本製RPG(ロールプレイングゲーム)を代表するゲームの1つですが、その音楽というとあなたは何を思い浮かべますか?多くの人は、まずはあの超有名なファンファーレで始まる序曲を思い浮かべるかと思います。しかし、ドラクエの音楽はそれだけではありませんよね?あの砂漠や荒野を征くフィールドの音楽、祠や洞窟に流れるダンジョンの音楽、そういったものもまたドラクエ音楽の魅力だと思います。様々な理由で魔王を倒すことになった勇者が、不安と期待を胸に旅をする。そんな普段の我々とは縁遠い世界の話なのに、音楽を聴くと不思議な懐かしさに見舞われます。この不思議な懐かしさが、今回ご紹介するヴァシリー・カリンニコフ(1866年1月13日-1901年1月11日)の交響曲第1番でも感じて頂けるのではないかな、と思います。
カリンニコフは名前から察することが出来るようにロシアの作曲家で、現在のロシア連邦オリョール州オリョール(モスクワとキエフの間の都市)出身です。1866年1月13日生まれですが、これはチャイコフスキーより26歳、ムソルグスキーより27歳、リムスキー=コルサコフより22歳年下で、ラフマニノフより7歳年上ということになります。カリンニコフの父親は貧しい警官でしたが、音楽好きでギターを弾いたり合唱団で歌ったりしていたようです。そのため、カリンニコフ自身も幼い頃から音楽に親しんでおり、14歳で地元の聖歌隊の指揮者を務めたという神童エピソードもあります。18歳でモスクワ音楽院に入学しますが、学費が払えずに数ヶ月で退学させられました。その後、奨学金を得てモスクワ楽友協会付属学校に入学、ファゴットを学ぶ傍ら、作曲をイリインスキーに師事します。当時はオーケストラでヴァイオリン、ファゴット、ティンパニーを演奏、また写譜をしながら生計を立てていました。学校卒業の1892年カリンニコフ26歳のとき、チャイコフスキーに才能を認められ、モスクワにあるマールイ劇場の指揮者に推薦されます。また同年、同じくモスクワにあるイタリア歌劇団の副指揮者にも就任します。順風満帆に思えましたが翌年1893年、推薦者のチャイコフスキーが急死、またカリンニコフ自身は以前からの過労の影響もあり、肺結核に罹患してしまいます。やむなく劇場での活動を断念し、気候の良いクリミア半島ヤルタで療養をしながら作曲活動に専念することになります。
交響曲第1番は療養先のヤルタで1894年から1895年にかけて作曲されました。この作品は音楽評論家であり師であり、ずっとカリンニコフを援助してきたクルーグリコフに献呈されています。クルーグリコフは初演をお願いしようと草稿のスコアを様々な演奏団体に送りますが、ことごとく断られていまします。依頼された音楽家の一人であるリムスキー=コルサコフも、演奏不能と拒否しています。しかしこれは、金銭的に余裕がないために写譜屋に依頼できず、音楽の知識があまりないカリンニコフの妻が写譜を手伝ったためと言われています。その後、友人たちの奔走が実を結び1897年にキエフで初演を行い、大成功を博します。更に、友人のラフマニノフの助力でユルゲンソン社より譜面が出版されることになります。その後この曲はドイツやフランスでも演奏され、20世紀初頭には人気曲として多くの演奏会で取り上げられることになります。しかし、カリンニコフ自身は1901年1月11日、病状が回復せずに療養先のヤルタで35歳を目前に他界します。自身は初演を含め交響曲の演奏を一度も聴くことなく、また出版された譜面を手にとることも出来ませんでした。(出版後、ユルゲンソン社主ピョートルは報酬を水増しして未亡人に支払ったそうです。)
交響曲第1番完成間近の1895年春のクルーグリコフへの手紙には、闘病についてこんな記述があります。―「私は最後まで闘う。私の心の中の恐怖がなくなるまで、死ぬそのときまで。」―もう100年以上前、才能を認められながら志半ばで病に倒れ早世した異国の作曲家、そんな彼がその運命と闘う中で残したこの作品は、我々にとってはある意味異世界の音楽かもしれません。しかし、その中にある不思議な懐かしさを感じて頂けるのではないかと思います。
第1楽章 Allegro moderato ト短調 ソナタ形式
少しロシアの土臭さを感じるソナタ形式の楽章。冒頭、弦楽合奏による第1主題の提示で始まります。チェロによる第2主題もまた非常に美しい旋律です。
第2楽章 Andante comodamente 変ホ長調 三部形式
美しく幻想的な緩徐楽章。ハープと弦楽器の伴奏で木管と弦楽器がゆったりと主題を奏でます。
第3楽章 Allegro non troppo - Moderato assai ハ長調 複合三部形式
思わず踊りだしたくなるスケルツォ。オーボエの主題で始まるトリオ部分は少しドラクエのフィールドの音楽風でもあります。(個人の意見です。)
第4楽章 Allegro moderato ト長調 ロンド形式
どこか懐かしさを感じさせつつ、しかし力強いフィナーレ。冒頭は第1楽章の主題が再現され、その後、第4楽章の主題が提示されます。その後は第1楽章、第2楽章の旋律が繰り返し登場し、最後は力強く終わります。
第1楽章(0:00)、第2楽章(14:10)、第3楽章(21:28)、第4楽章(29:08)
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